甘い薬

 

 ぼーっとする・・

 この感じは、あれか。秋から冬にかけて流行する厄介な・・・。

「っ・・クシュン」

 

  嗚呼。風邪に違いない

 

「薫殿?入っても良いでござるか?」

 聞こえるのは愛しい恋人の声

「剣し〜ん」

 私が情けない声をだすと、スッと彼が入ってきた。

「風邪をひいたでござるか?」

「そうみたい。さっきから頭がガンガンするの・・」

 そういうと次の瞬間には彼の顔が目の前にあり、二人のおでこはくっついていた。

「少し熱が高いようでござるな・・。横になると良い」

「(照)///そうする・・。」

 こんなとき当たり前のように肌をくっつけることで、改めて以前のような 

 家主と食客ではなく、恋人同士であると実感する。

 

(熱上がりそう。)

 

しばらくまどろんでいたころに、良い刺激臭が鼻をくすぐった。

「薫殿、粥を作ってきたでござるよ。食べれるでござるか?」

「うん・・。ありがとう」

 そういうと、剣心は嬉しそうに盆にのったお粥をよそり始めた。

「・・・剣心?」

「何でござるか?」

 彼お得意の満面の笑みをこぼしながら、蓮華を私の口に運ぼうとしている。

「・・自分で食べれるわよ!」

「何をおっしゃる、薫殿。病人は病人らしく看病されるでござるよ」

 はあ・・・。数ヶ月前の彼の一線引いた様子は今は見る影もなく、現在の彼は

 恋人をひたすら甘やかす男に成り下がっていた。

 結局剣心のお望み通り食べさせられたわけだが。

「胃に物も入ったことだし、薬を飲むでござるよ」

 ビクッ!!

「薬ニガイ!やだ〜!!」

 そう、私は大の薬嫌いなのである。

「おろ?わがままを言ってはいけないでござるよ。」

「嫌なものはいやなの!風邪なんて寝てれば治るわよ」

「風邪は古来から万病の元。こじらすと大変でござるよ。拙者が調合したでござるから。」

「・・剣心が?」

 そう、彼は以前薬師の真似事をしていた。

「葛根を煎じてきたでござるよ。これは発汗・解熱作用があるでござるよ。」

 せっかく剣心が煎じてきてくれた薬だが

 

『良薬は口に苦し』

 

 味は容易に想像できる。

「・・苦いんでしょ?それ・・・」

「苦くなどない。安心して飲むでござるよ。」

 

嘘だ。絶対に嘘だ。

 

葛根特有のあの味を薫は忘れるはずもなかった。

葛根は風邪の初期に飲む有名な生薬で、薫とて過去に何度か、父に

泣く泣く飲まされた経験を持つ。

 

そんなことをもんもんと考えていた薫は剣心によって現実世界に引き戻された。

 

「薫殿!!」

「!嫌だっ・・・ン・・・。」

抗議の言葉は剣心の口内に消えていった。

薫の口の中に彼が入ってきたかと思ったら

 (ゴクンッ)

「・・・・・」

「ほら。甘かったでござろ?」

 

 ハッ!!

 

「何言ってるのよ〜!!」

 

やられた。剣心はしてやったりという笑顔を浮かべている。

 

(くやしい〜!)

 

結局彼にはかなわないのだ。そんなことを言うと彼は

「それはお互い様でござるよ。」

と言って、あの笑顔で私をたしなめる。

 

いつか必ず!という気持ちの反対側で嬉しかったりする自分もいる。

 

あの薬は   甘い媚薬に違いない。

 

 

 

あとがき

 

私の処女作です。

いかがでしたでしょうか。かなり定番で恥ずかしい限りですが・・。

作中に出てきた葛根は風邪の最も初期に飲む薬です。